日本とオーストラリアの狭間で

昭和生まれ奇想天外な私のこれまでの歩み。社会脱落者としてこれからどうする?40歳目前独女の独り言。

私の見てきた解雇

私の職場では財政状況が悪化し過去に二度ほど大きな人事整理があった。一度目の時は何の前触れもなく主に工場スタッフのリストラが行われた。その時はリストラ対象者だけが一人づつ会議室に呼ばれていて、私は自分のオフィスから次は自分が呼ばれるかと不安になりながら遠巻きにその様子を見ていた。会議室から緊張した面もちのMDがティッシュがあるかとオフィス内を歩いていたのが印象的だった。特に女性は大泣きの人が多かったのだろう。私は地獄絵図と言う言葉を何度も頭の中で繰り返した。


二度目の時は事前に社員全員に人事整理が行われることとその理由が告知された。この時はまず希望退職者を募って足りない分を強制解雇にするという話だった。その告知後社内では様々な噂が流れ重苦しい雰囲気が漂う。当然無能外国人労働者である私は解雇対象の可能性が高く、私は自己退職しようと考えていた。豪州での生活を引き払い日本に帰国しようと思うと当時の上司と話し合っていた。実はその上司と私のどちらかが解雇になるのはお互いわかっていたので、私が辞めなければその上司が退職することになるのは明白。私は決意を固めて会社に自主退職の旨を伝えようとしていた。ところがその前にMDが私のところに来て私は対象者ではないので手を挙げてはいけないと言われる。つまり会社側は既に退職者リストを作成していて、もしそれ以外の人が自主退職を申し出た場合は最初から留意するつもりだったのだ。


その時に私の上司が解雇対象者であると聞かされた。しかもたとえ私が自己退職したとしても、その上司の解雇は免れないので無駄な抵抗はするなと言う。当然絶本人を含めて人事発表まで絶対に誰にも言ってはいけないと釘を刺さされたので私は数週間、解雇対象である上司と顔を合わせる度に心が痛んだ。誰も知らない極秘事項を知ってしまった重さと、上司への申し訳なさと、上司を失う事への恐怖が頭の中を駆け巡った。


その時の発表は解雇対象に関わらず全員一人づつ会議室に呼ばれた。全員の面談が終わると誰が解雇になったかという話がさっと広まった。興奮している人や泣いている人が多く職場は混沌としていた。解雇になった上司は平然を装って話していたが、まさかという思いは見て取れた。外人の私が解雇されず現地人の上司がリストラになったのは非常に大きな噂になり会社に異議申し立てをする人たちも現れた。私が辞めてもその上司の解雇は免れられなかった事を知らないとは言え、その後長い事会社の内外から批判を浴び続けたのだ。

 

その二度の人員削減以外は基本的に解雇になるというケースは余程のことがない限りなかったのだが、最近会社の経営方針が変わり成果の上げられないスタッフは躊躇なく解雇するようになっている。採用の過程でも数週間から数ヶ月の試用期間を設けてその中で会社に貢献出来る人材であると判断されなければその場で雇用を打ち切るようだ。数ヶ月前から働き始めた女性はこのまま雇用していても十分な成果が見込めないとみなされ先日突然解雇を言い渡されていた。この女性は私の知り合いだったので衝撃は大きかった。私は解雇の数日前に何かの話の中でMDからその話を極秘に聞いていた。そこから数日、そんな事態を想像する事もなく普通に働く彼女をいたたまれない気持ちで見ていた。ついにその旨が彼女に伝えられた日、私は偶然トイレで泣いている本人に出くわした。何も知らないフリをしてどうしたのかと聞きながら暫く泣きじゃくる彼女を慰めた。その日付で雇用が終了した彼女は多くの人と挨拶も交わす事もなく静かに職場を離れたのだ。

 


これ以外にも自主退職を促すようなケースがあった。上層部のマネージャーで私はこの時も本人からその事を聞く前に上司から絶対に公言するなと言われて聞かされていた。この場合は本人も辞意の可能性を示唆した経緯もあり円満に雇用が終了したのが救いだった。会社側は辞意の話が出た時に引き留める事もなくむしろ次のキャリアに向かうべきだと背中を押して自主退職に持って行ったのだ。本人も本当の理由は知らないまま会社を去って行った。もちろんその真意は知らないままの方が良かったと思う。

 


こうして色々書いてみると次は我が身かと思う。そもそも私は次のビザがない限り雇用も終了するので辞職は時間の問題ではあるが、のんびりした豪州の会社でもいかに能力主義が定着しているか、また会社の日本のように建前と本音が存在する事がよくわかる。そして経済状況が厳しくなり企業間の競争が激化している一面も見て取れる。解雇される人が途方に暮れるのはもちろんの事、会社側も出来る限り穏便にと気を使い、また残された人への精神的な影響は大きいと思う。この頃は明日解雇を言い渡されるかもしれない漠然とした不安を抱えながら海外で働き続けるなら、いっそのこと自ら辞職をしようかと考えている。無能な外人労働者の私が今後どうなるのか、自分が解雇を言い渡される日の絶望を想像しながら日々仕事に出ている。